NMNとCoQ10、「どちらが効くか」では見えてこないこと
2026.08.19
エネルギーは、材料ではなく「つながり」でできている
NMNと、還元型コエンザイムQ10。
このシリーズを読んできた方なら、もうピンときているかもしれません。どちらも、年齢とともに変わっていく私たちの「エネルギーづくり」に欠かせない、大切な成分です。
多くの人が、まずこう考えます。NMNと還元型CoQ10、どちらが効くのか、どちらを優先すればいいのか。片方だけで済むなら、そのほうが手軽だからです。
けれど、この問いには、少し見落としがあります。この比較が成り立つのは、ひとつの成分だけでエネルギーづくりが完結する場合だけです。もし、そうではないとしたら、どうでしょうか。
元気は、材料の量ではなく「つながり」で決まる
エネルギーづくりは、駅伝によく似ています。
お正月に、箱根駅伝をご覧になったことはないでしょうか。中継所で、汗だくの選手がたすきを外し、次の走者の肩へとかけていく、あの一瞬です。駅伝で問われるのは、一人ひとりの走力だけではありません。前の走者からたすきを受け取り、次の走者へと渡す。そのたすきを、ゴールまで一瞬も途切れさせないことです。どれだけ足の速い選手をそろえても、途中で誰かがたすきを落としたり、立ち止まったりしてしまえば、そのチームはゴールにたどり着けません。
体の中のエネルギーづくりも、同じ構造をしています。食べものという材料が体に入っても、それがそのまま元気に変わるわけではありません。材料から力を取り出し、その力を運び、その流れを邪魔する風から守る。このステップがきれいにつながってはじめて、私たちは「今日も調子がいいな」という確かな元気を実感できるのです。
年齢を重ねると、体の中のさまざまな仕組みが少しずつ変化していきます[4]。エネルギーをつくる工場も、その例外ではありません。
つまり、大人の元気は、材料をどれだけ摂ったかではなく、たすきが最後までつながるかで決まるのです。
NMNと還元型コエンザイムQ10は、この一本のたすきリレーの、別々の区間を担うランナーたちです。
NMNは、最初のたすきを掴み取る「一走」を支える
エネルギーづくりというレースの第一区間。ここでは、食べ物からエネルギーの「元」をもぎ取ります。
この一走を務めているのが、私たちの体内にある「NAD⁺」という成分です。NAD⁺は、栄養素から力を引き出すために、体の中で働き続けています。最近、サプリメントとしてよく耳にするNMNは、このNAD⁺を体内でつくるための材料のひとつです。
若いころは、少しくらい無理をしても、一晩ぐっすり眠れば、翌朝にはすっきり動けました。ところが年齢を重ねると、同じように眠ったはずなのに、なんだか重だるさが抜けません。その理由のひとつは、この一走であるNAD⁺が、年齢とともに減りやすいことだと考えられています[3]。
一走の動きがガクンと鈍れば、どれだけ食事に気をつけても、次の走者に渡せる力そのものが小さく、細くなってしまいます。だからこそ、一走を支えるNMNが、今注目されているのです。
けれど、ここで安心するわけにはいきません。一走がどれだけ立派にたすきを受け取っても、それが次の走者に渡らなければ、レースはそこで止まってしまいます。

還元型CoQ10は、たすきを運びながら「向かい風」から守る二走
取り出された力は、まだ私たちが使える完成品ではありません。細胞の中にある「ミトコンドリア」というエネルギー工場では、その力が、電子という目に見えないほど小さな粒に姿を変えます。その電子が、奥へ奥へと次々に受け渡されていきます。前回の記事でお話しした、あの受け渡しのステップです。
この区間を担う二走が、コエンザイムQ10です。一走から渡されたたすきをしっかりと受け取り、次の地点へと運ぶ。この動きが途切れないからこそ、力は少しずつATPという、体が使える形に近づいていきます。
そして、還元型のCoQ10には、もうひとつの役目があります。実は、エネルギーをつくる過程そのものから、酸化ストレスという負荷が生まれます。これは、ランナーの体力を奪い、コースを荒らす向かい風のようなものです。還元型CoQ10は、たすきを運ぶと同時に、この向かい風を遮り、コースそのものを守る盾としても働いています。
ここまでくると、二つの成分の違いがはっきりしてきます。どちらか一方が欠けても、たすきは最後まで届きません。

一人だけ速くても、たすきは繋がらない
ここまでの話を、もう一度、レースの場面で振り返ってみましょう。
一走がどんなに勢いよくスタートを切っても、次に待つ二走がいなければ、たすきは前に進みません。二走がどれだけ走りが上手くても、一走から渡されるたすきが糸のように細ければ、運べる力は最初から足りていません。そして、コースが向かい風で荒れていれば、どれだけ優秀な二人がそろっていても、たすきは途中で吹き飛ばされてしまいます。
NMNだけを見ていても、還元型CoQ10だけを見ていても、このリレーは半分しか見えません。
この見方は、単なるたとえ話ではありません。実際の体でも同じことが起きていると、ある研究は示しています。
年齢を重ねた心臓が見せた、たすきの結果
参考になるのは、年齢を重ねたラットの心臓を使った研究です[1]。
心臓は、私たちが眠っている間も休まず動き続ける臓器です。それだけ、多くのエネルギーを必要とします。この研究では、年齢を重ねたラットの心臓の血流を一度止め、そのあと再び流すという、強い負荷をかけています。血流を戻すこと自体は必要な処置ですが、止まっていた流れが急に再開すると、心臓には大きな負担がかかり、エネルギーづくりが乱れやすくなります。ちょうど、荒れたコースを走らされるようなものです。
研究では、NMNだけを使った場合、還元型CoQ10だけを使った場合、そして両方を組み合わせた場合を比較しました。
片方だけを使った場合でも、一定の変化が起きていました。けれど、両方を組み合わせた群では、それ以上でした。心臓のリズムの乱れが、いっそう抑えられていたのです。心臓の働きや酸化ストレスに関わる指標にも、良い変化が重なっていました。
もちろん、これはラットを対象にした研究であり、そのまま人に当てはまるとは言えません。ただ、この結果は、ひとつの見方を裏づけています。エネルギーづくりを、一走と二走がつながった一本のたすきリレーとして見る、という見方です。
人を対象にした研究でも、近い方向性は見られています。慢性的な疲労を抱える人に、CoQ10とNAD⁺に関わる成分を組み合わせて摂ってもらった研究では、疲労感や生活の質に関する改善が報告されています[2]。これはNMNそのものを使った研究ではありません。それでも、NAD⁺側とCoQ10側、両方の区間を同時に担うという考え方は、ここまで見てきた内容と重なります。
二つがそろって、はじめて「元気のゴール」へ
年齢とともに、私たちの「回復のエンジン」は、少しずつ静かになっていきます。
しっかり眠ったはずなのに、朝から体が重い。午後になるともう、夕方までもつ気がしない。以前なら一晩でリセットできたのに、だるさが何日も残る。
そんなとき、私たちはつい「何か足りないのかもしれない」と考えます。そして、足りない材料を探そうとします。
けれど、ここまで見てきたように、エネルギーは材料の量だけでは動きません。力を取り出す一走がいて、その力を運ぶ二走がいて、コースを風から守る働きがある。この三つがつながって、はじめてたすきはゴールまで届きます。
NMNは、NAD⁺を通じて、一走を支えます。還元型コエンザイムQ10は、二走として力を運びながら、コースを風から守り抜きます。
「どちらが効くか」ではなく、「両方がそろって、はじめてたすきが最後まで届く」。この二つを一緒に考える理由は、ここにあります。
元気は、材料だけでは動きません。取り出し、運び、守る。そのたすきがつながってはじめて、私たちは「元気」を実感できるのです。

参考文献
[1] Mokhtari B, Jessri A, Ghaffari S, Badalzadeh R. Superior Anti-arrhythmogenic Effect of Combined Conditioning with Nicotinamide Mononucleotide and Ubiquinol in Myocardial Ischemia/Reperfusion Injury in Aged Rats. Advanced Pharmaceutical Bulletin. 2024.
https://doi.org/10.34172/apb.2024.044
[2] Castro-Marrero J, Segundo MJ, Lacasa M, Martinez-Martinez A, Sanmartin Sentañes R, Alegre-Martin J. Effect of Dietary Coenzyme Q10 Plus NADH Supplementation on Fatigue Perception and Health-Related Quality of Life in Individuals with Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome: A Prospective, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial. Nutrients. 2021;13(8):2658.
https://doi.org/10.3390/nu13082658
[3] Covarrubias AJ, Perrone R, Grozio A, Verdin E. NAD+ metabolism and its roles in cellular processes during ageing. Nature Reviews Molecular Cell Biology. 2021;22(2):119-141.
https://doi.org/10.1038/s41580-020-00313-x
[4] López-Otín C, Blasco MA, Partridge L, Serrano M, Kroemer G. The Hallmarks of Aging. Cell. 2013;153(6):1194-1217.
https://doi.org/10.1016/j.cell.2013.05.039

佐藤 洋平(さとう ようへい)
医学博士・理学療法士。オフィスワンダリングマインド代表。
脳科学、心理学、医学生理学を専門とし、研究論文や学術知見を、一般の方にも理解しやすい言葉へ翻訳する活動を行っている。企業のヘルスケア製品開発やエビデンス構築、研究支援、情報発信支援などに多数参画。
専門領域は、加齢、認知機能、睡眠、運動、行動変容、ヘルスケアマーケティング。科学的根拠と実生活を結びつける視点から、健康やウェルビーイングに関する情報発信を続けている。
